2015年03月23日

(アーカイブ)2012年8月  団塊世代は「高活ビズ」に挑戦しよう

 現在、政府では2001年以来11年ぶりとなる高齢社会対策大綱の見直しを行っているが、その骨子案が意見募集のため内閣府のホームページに掲載された。骨子案で特に強調されているのは、「65歳は高齢者か」という問いかけであり、社会を支える頼もしい高齢者パワーへの期待である。このことは、今年から順次高齢者(65歳以上)の仲間入りをする団塊世代を意識していることは明らかである。

 1947年から1949年の3年間に生まれた団塊世代は現在約700万人、そのすべてが2015年までに65歳の年金受給年齢に到達する。さらにその後の2年間に生まれた広義の団塊世代まで含めると、これから向こう5年間に年金受給年齢に達する人の数は1千万人を超える。高齢者数もネットで毎年100万人ずつ増えることになる。折しも国会では、「社会保障と税の一体改革」と銘打って、2014年に8%、さらに2015年に10%まで消費税を増税する案が審議されているが、これら団塊世代を中心とした年金受給者数急増に対処する動きと解釈することもできるのではないか。

 大綱骨子案が団塊世代に期待しているのは、これまでのように現役を引退して余生や老後を生きるといったイメージ、あるいは年金など社会保障によって支えられるだけの高齢者像ではない。むしろ何らかの形で仕事に従事し、社会を積極的に支える高齢者になることを期待しているのではないか。そして1人でも多く支える高齢者が増え、これまでの世代間扶養型から全員参加型の社会に移行することこそ、持続可能な高齢社会を実現する鍵になるという考え方をにじませている。

 そこで高齢者が社会を支えるために活躍する、あるいは活躍できる仕事は何かを考えることが重要になる。収入は多くなくてもよい。高齢者に向いた仕事であって、若者など現役世代の雇用機会を奪わない働き方ができる仕事が望ましい。そのような仕事を提供するビジネスを、ここでは「高活ビズ」と呼ぶことにする。支える高齢者を増やすためには、今後この「高活ビズ」を開拓・創造し、その起業を促すことが急務である。

 すでに「高活ビズ」として様々なビジネスが動き始めている。例えば、地域や社会の課題をビジネスの手法で解決するコミュニティビジネスやソーシャルビジネスと呼ばれるビジネスは、高齢者に向いた仕事を提供できるビジネスとして注目されている。また現役時代の人脈やネットワークを活用したビジネス、これまでの経験を活用したビジネス、身に付けたスキルや知識を活用したビジネス、シニア派遣ビジネスなど、様々なビジネスが高齢者に仕事の場、活躍の場を提供していくことになろう。

 これら「高活ビズ」の普及を促進するためには、事業者の自助努力に任せるだけではなく、国や地方による行政的支援が欠かせない。また行政と事業者との間に立って、「高活ビズ」を支援する中間支援機関の育成も必要となってこよう。そしてこれから高齢者の仲間入りをする団塊世代こそが、事業者あるいは働き手として、「高活ビズ」の中心的な担い手になることを期待されているのではないだろうか。

2012年8月2日 特定非営利活動法人 日本シンクタンク・アカデミー 理事長 岡本憲之
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(アーカイブ)2012年6月  市場の変質 - 画期的なノーベル経済学賞の登場を期待

   欧州の信用不安に世界経済が揺れている。日本では円高が進み株価が急落、新興国の減速も鮮明になってきた。回復基調にあった米国でも、このところ経済指標の悪化が目立つ。
 それにしてもなぜここまで市場では信用危機が繰り返されるのか。様々な原因が考えられるが、1つは市場を適正に制御するための有効な方法が打ち立てられていないからではないか。

 20世紀末から21世紀にかけて金融工学が一世を風靡した。ノーベル経済学賞の多くはこの分野から排出した。ゴルディロックス経済などと呼ばれ、過熱なき経済成長は続くと思われた。しかし2008年の米国発リーマン危機で状況は一変した。極端な信用収縮が起き、そして金融工学の限界も露呈した。

 そもそも金融工学の最大の失敗は、市場の変質に目を向けなかったことではないか。市場の本質的な特性は変わらない。ただ変動しているだけである。したがって過去のデータを長期にわたって整備すれば、確率統計理論的に市場を制御できるはずである。そんな仮定から金融工学は出発した。

 しかし仮に市場が変質するものとすると、過去のデータはあまり役に立たなくなる。過去のデータに基づく格付けなど、それこそ変質した新たな市場では無用の長物となる。変質前の市場でトリプルAでも、変質後の市場ではすでに投機的水準になっている。信用不安が起きてから、あわてて格付けを引き下げても遅い。市場を混乱させるだけである。今回の欧州危機で、格付け会社が批判されているのもうなずける。

 この変質する性質を持つ対象のことを、情報系分野では複雑系、実務の世界では再帰性などと言う。そしてそんな対象を扱う理論が研究されている。しかし複雑系理論にしても再帰性理論にしても、決して方法論として適用できるほどまでに確立された理論ではない。金融工学で変質する特性を持った市場を制御するのが難しいことはわかってきたが、だからといって複雑系理論や再帰性理論で市場を制御できるわけでもない。未だに金融工学に代わる画期的な方法は登場していないのである。

 21世紀の変質する市場を制御する新たな経済理論とはどんな理論なのか。その理論は従来の理論の体系的な組み合わせなのか。それとも従来とは全く異なる画期的な理論なのか。結論はどちらでもよい。要は荒れ狂う市場を適正に制御できる方法を生み出す理論でありさえすればよい。

 前回のリーマン危機と今回の欧州危機、いずれも過度な信用の膨張と信用の収縮であることはわかっている。ただ信用が膨張する過程で、恐らく市場が変質しているのではないか。問題は現在の理論に基づく方法では、変質前には有効であったとしても、変質後の市場を制御できないことである。やはりここはノーベル経済学賞が次々と排出するような、新たな経済理論の登場が待たれるゆえんである。

2012年6月1日 特定非営利活動法人 日本シンクタンク・アカデミー 理事長 岡本憲之
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(アーカイブ)2012年3月  「高齢社会の全体像」を描出する円卓会議の提案

背景 - 高齢社会対策は個別対策から総合政策へ

 わが国において高齢化は、これから長期にわたり徐々にではあるが確実に進んでいく。そして「日本の社会」を「人間の体」に例えて考えると、社会の高齢化に伴い、様々な問題(病気)が発生(発症)するようになる。最初は各問題に対して個々に対策(治療)を施す個別対策(対症療法)でも対応が可能である。しかしさらに高齢化が進むと、問題が頻発し個別対策では間に合わなくなる。
 そこでより抜本的な解決策(根治治療)が求められるようになる。つまり社会を高齢化に対してより抵抗力のある体につくり変える必要が生じてくる。
 この社会の「体質改善」によって抜本的に問題の発生を抑制、逆に高齢化を新産業創造や技術革新といったイノベーションの起爆剤とし、新たな社会の発展につなげる。その道筋を示すことによって、「明るく活力ある高齢社会」を創造することが重要となる。

目標

 「明るく活力ある高齢社会」の全体像を描き、その実現に向けた道筋を提示する。

議論にあたって心掛けるべきポイント
•高齢化すなわち衰退という暗いイメージを払しょくし、夢や希望に満ち、発展可能な高齢社会をどうすれば構築できるかを議論する。
•個々の問題に対応する個別対策より、社会全体に目配りする総合政策の視点を重視する。
•できるだけ多くの国民が、高齢社会の全体像を共有し高齢社会への理解を深めことができるよう、高齢社会に関する総合的な知識の普及に努める。

円卓会議の必要性

 高齢社会についてはこれまで、10人寄れば10通りの立派な各論が展開されてきた。もちろん各論を深める必要があることは言うまでもないが、それらはモザイクの小片のようで、組み上げると全体がどういう姿になるか見えない。
 そろそろ大雑把でもいいから、目指すべき高齢社会の全体像を描く時期に来ているのではないか。つまり高齢社会の全体像を共有することによって、各論の位置付けがより明確になり、様々な分野あるいは分野間での議論がかみ合うようになる。
 高齢社会の全体像を描くには、相互に関連のある分野間の議論が欠かせない。すなわち高齢社会について、各分野の専門家がそれぞれの分野を語るだけではなく、分野を超えて目指すべき高齢社会について互いに議論する。そして皆が共有できる、実現可能な高齢社会の全体像を創り上げていく必要がある。そのためには各分野の専門家が円卓を囲む形に配置されるのが望ましく、円卓会議が適当である。

円卓会議の進め方
•会議の構成は、最初にモデレーターを決定する。モデレーターは常任とし、総合中立の立場から、分野間の議論が促進されるよう努力する。
•会議は適当な間隔で複数回開催する。
•各回の会議には、モデレーターの意向を踏まえ、各分野から代表者をお招きする。そして招聘者は常任とせず、毎回新たに選任する。
•会議では論点を明確にし、提起された各分野あるいは分野間の課題や解決策などを議論する。特に分野間の議論がかみ合うよう工夫する。

招聘者

 産・官(政)・学・民から代表者をバランスよく招聘する。

2012年3月1日 特定非営利活動法人 日本シンクタンク・アカデミー


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