[各候補が獲得した累計代議員数]
・民主党:クリントン:1,055、 サンダース:418、
(全体の代議員数:4、657 )
・共和党:トランプ:315、 クルーズ:205、 ルビオ :106、
(全体の代議員数:2、472)
2.米大統領予備選が映し出す米国政治の現実
(1)2大政党「民主対共和」の対立構図の変質:
・従来、‘福祉政策重視のリベラルな民主党’対‘「小さな政府」を目指す共和党’という
対立構図にあったが、今回の予備選では、2大政党の両方で、夫々、エリート(大金持
ち、大企業、金融界、軍産複合体、国際主義者)と、草の根(庶民、貧困層、国内優先
派=孤立主義者)との対立が激化。その結果、「リベラルvs 保守」よりも、「エリート
vs 草の根」の戦いの様相へと変質。
・共和党トランプ候補は極論をずらりと並べ、とりわけ周辺国との摩擦も辞さない強硬姿勢で、有権者の人気を集め、草の根に支持され、党内エリートの支持する他候補たちに30%以上の差をつけている。曰くトランプ旋風。
一方、民主党クリントンもTPPは国内雇用への配慮から反対を叫ぶが、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーから講演を頼まれ巨額の金をもらったと、伝えられるなどで、金持ちに支持された候補、エリート候補の印象に対し、彼女のライバル、自ら民主社会主義者を名乗るサンダース候補も格差問題へは革命的な是正が必要と訴え、若い世代に圧倒的人気を博している、草の根に支えられた候補。曰くサンダース旋風。
(2)‘旋風’の背景:
トランプ旋風、サンダース旋風と言われる政治風土の背景は、既にヨーロッパでも起きている(注)ことだが、有権者の現状への不満に、既成政党や政治エスタブリッシュメントが応えてくれない事にあると言われている。そしてその不満の原因には、グローバル化の副作用と言われる格差の拡大があるが、現在進行中の第4次産業革命が更に格差を広める懸念をも打つものとされている処。
(注)欧州に見るポピュリズム動向:
・英国:2014年、欧州議会選挙で主権回復と移民制限を訴える英国独立党
(UKIP)が二大政党の得票率を上回る
・仏:12年の大統領戦以降、ユーロ圏離脱や移民排斥を主張する国民戦線(FN)が保革に次ぐ第3極の地位を固めた
・南欧:スペインでは反緊縮、雇用創出を公約に掲げる左派政党ポデモスや、ギ
リシャでは急進左派(SYRIZA)が急進。
・その他、オランダ、スイス、デンマークなどでもポピュリスト政党がリード。
問題は、これら論争が、いずれもポピュリズムに乗ずる形で進んでいるのだが、これが米国の内向き姿勢を更に強めかねないリスクを孕んでいること。
3.ポピュリズム とは
・ポピュリズム(「衆遇政治」或いは、「反知性主義」)の本質は、社会のエリート、既得権
益層に虐げられるとされるサイレントマジョリテイを代表する事にあり、何よりも、政
治が一部の人間に寡占され民意が捻じ曲げられている事への意義申し立てであり、人々
を束ねるイデオロギーではなく、彼らの不満を表現する否定の政治とされるもの。
・その在り方は、「多数者の専制」を警戒し、個人の理性や法の支配を原則とする自由主
義的原理を嫌う。つまり、司法による権力のチェック・アンド・バランスや官僚制の
専門知識、知識人・メデイアの言説を含め、それはエリート支配の道具とみなす処。
つまり、民意の期待値を代表エリートが満たしていないと感じられる時に、いや応な
くポピュリズムは台頭すると言われている。
4.可能性が出てきたトランプ候補、そのリスク
(1) トランプ候補が何故共和党にあって優位?
排他主義的政策の先導者と言われるトランプ候補が何故いま受容されようとしているの
か。FTの著名なコメンテーター、M.ウルフは共和党のこれまでの経過の中で進んだ
悪化にありと、かく指摘する。
「・・・税負担の軽減と小さな政府を目指す富裕層が、それを実現するのに必要な共和
党のボランテイアや有権者らの支持を手に入れてきたからだ、と言うものになる。つま
り、共和党がやってきた政治とは、金権政治と右翼の大衆迎合主義が融合した「金権ポ
ピュリズム」だ。トランプはこの融合を体現しているが、共和党の支配層が掲げる自由
市場、少ない税負担、小さな政府の三つの目標の一部を捨てることに拠って、それを成
し遂げている。支配層に経済的に依存しているライバル候補は、これら目標を否定する
ことができないだけに、トランプは圧倒的優位を誇れる」(3月6日付日経)と。
ただこれは一政党の話に留まらない。米国全体にかかわる問題であり、それは必然的に
世界全体にかかわる話となる。(→ 米国民の選択は世界を揺るがす)
(2) トランプかクリントンか、どちらが大統領になっても対日環境は厳しくなろう
現在、トランプ候補から引き下ろそうと共和党エリート層は動いている。が、so far彼の共和党候補指名は確実視されており、その点で、The Economistは、2月27日付巻頭言で`Time to fire him’ と言う。ただ3月5日付では、`Battle lines’ として `The prospect of Trump v Clinton is grim. But look carefully and 2016 offers a faint promise of something better.’と潮の流れの変化を示唆するようなコメントも伝えている。
いずれにせよ、ポピュリズムに乗ずるようであれば、どちらが大統領になっても双方の言動を見る限り、米国は内向きとなろうし、両者の政策(注)に照らし、日本との関係は厳しくなっていくものと予想されるのだが。
(注)これから本格化が予想される政策論争
(1)財政政策: クリントン:富裕層・巨大銀行課税強化、教育支援、インフラ投資楼の財源に
トランプ :法人税率35%から15%へ、低所得者に加え、高所得者も減税
(2)TPP : 何れも反対
(3)内 政: クリントン:男女の賃金格差解消、銃規制強化
トランプ :不法移民の強制送還、銃規制強化に反対
(4)外 交: クリントン:IS空爆強化、イラン核合意支持、
トランプ :イスラム教徒入国禁止、メキシコ国境に壁
(5)対日政策:クリントン:円安誘導批判、オバマのアジア重視路線継承
トランプ :円安誘導批判、日米安保で日本のただ乗り論批判
〆