人口ボーナス/オーナス論への反論
戦後の高度成長の要因として、しばしば生産年齢人口の増加が挙げられる。いわゆる人口ボーナス論である。そして現在の日本では、少子高齢化に伴い生産年齢人口の急速な減少が始まっている。それは経済の足かせになり、成長を阻害する要因となる。いわゆる人口オーナス論である。このまま行くと、日本の未来には暗く衰退する社会が待っている・・・・・?
しかし本当にそうだろうか。確かに生産年齢人口の増加は経済成長の1つの要因とはなろう。しかし経済学者の吉川洋氏は、戦後の高度成長のより大きな要因として世帯数の増加を挙げている。戦後、地方から都会に出て来た若者たちは、新たに多くの世帯を形成した。いわゆる核家族化である。この核家族化の流れが、車や家電製品などの各世帯への普及を通じて高度成長を牽引したと言うのである。
戦後の大家族から核家族への変化の本質は何かを問えば、その答えは新たな人生スタイルの登場ということになるのではないか。そして新たな人生スタイルの登場こそが、イノベーションを起こし成長をもたらしてきたのではないか。そう考えると今の高齢化の流れに対しては、生産年齢人口の減少とは違った見方ができるのではないか。それは長寿化に伴う高齢期の新たな人生スタイルの登場という大きな流れである。
今や高齢者の人生は、昔のように老後とか余生といった十把一絡げの言葉では片付けられない。人生における長い高齢期は、多様で新しい人生スタイルの登場を意味し、それらはイノベーションと成長のチャンスと捉えることができるかもしれないのだ。
必要とされるエイジノミクス論
多くの人は高齢化に対して、「暗い」あるいは「衰退」といったイメージを持っているようだが、それは先入観である。実際イノベーションとそれに伴う成長は変化の過程で起きる。エイジングすなわち人口構造の変化、これはイノベーションの機会である。日本をはじめ世界的に高齢化が進む中、経済の持続可能な発展に向けた道筋を改めて探るべきではないか。まさにそれこそがエイジノミクスである。
先端医療技術の進歩など技術的ブレークスルーはイノベーションを生み出す。しかし技術だけではない。例えば高齢化は、分厚く多様でアクティブな高齢層が新たに生まれる変化である。新たなライフスタイルやワークスタイル、あるいはエンディングスタイルが登場する。また高齢社会対応のインフラや地域支援制度等新たな社会システムへの移行、共助文化の醸成、あるいは多世代共創による新たな相乗効果の創造など、すべてがイノベーションを生み出す機会となる。まさにエイジングはイノベーションの宝庫である。
いよいよ本格的な超高齢社会を迎える日本。これからの日本は、かつての1回きりの人生「単作時代」から、平均寿命90歳を超える人生「二毛作時代」へと向かう。そしてイノベーションの機会も2倍に増える。来るべき未来で待っているのは暗く衰退する社会ではない。イノベーションに満ち溢れた、明るく活力ある社会である。そして、それを実現する経済がエイジノミクスである。
2014年12月1日 日本シンクタンクアカデミー理事長 岡本憲之
posted by 毎月コラム at 11:26|
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