問題はその対策である。政府が打ち出そうとしている政策は、とにかく人口を増やすことだけを考えている節がある。もちろん人口減少に歯止めをかけるためにも、子供を産み、子供を育てやすくする環境の整備は極めて重要である。しかし本当にそれだけでよいのだろうか。経済学者の吉川洋氏は、実は人口と経済成長との間には強い相関は見られないと言っている。そして経済成長に最も影響を与えるのはイノベーションであるとも。
多くの人は少子高齢化に対して、「暗い」あるいは「衰退」といったイメージを持っているようだが、それは先入観かもしれない。実際、高齢化は医療技術の進歩や経済の発展、そして平和の持続によってもたらされた。また、イノベーションは変化の過程で起きる。エイジングすなわち人口構成の変化、これはイノベーションのチャンスかもしれないのである。
先端医療技術の進歩など技術的ブレークスルーはイノベーションを生み出す。しかし技術だけではない。例えば高齢化は、分厚く多様なシニア層が新たに生まれる変化である。それは新たな需要層の誕生でもある。この需要層を捉えることこそイノベーションである。新たなライフスタイルやワークスタイル、あるいはエンディングスタイルすら登場する。さらに高齢社会対応のインフラや制度等新たな社会システムへの移行、あるいは世代間連携による新たな相乗効果の創造など、すべてがイノベーションをもたらす。まさにエイジングはイノベーションの宝庫と考えるべきである。
いよいよ本格的な超高齢社会を迎える日本。これからの日本は、平均寿命60年の一度きりの人生「単作時代」から、平均寿命90年の二回の人生「二毛作時代」へと向かう。そしてイノベーションのチャンスも2倍に増える。来るべき未来で待っているのは暗く衰退する社会ではない。イノベーションに満ち溢れた、明るく活力ある社会である。そんな超高齢社会を、高齢化で先頭を走る日本が世界で最初に実現したいものである。
2014年7月1日 日本シンクタンクアカデミー 理事長 岡本憲之