1つ目の問題は人口構成の高齢化である。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が今年4月11日に発表した推計によると、世帯主が65歳以上の高齢世帯は2035年に全世帯の4割を超える。高齢者(割合)の急増は、年金や医療など国の社会保障制度に待ったなしの対応を迫っている。
2つ目の問題は人口の減少である。政府の経済財政諮問会議の下に置いた「選択する未来委員会」が今年5月中旬に中間報告として提言する内容が、5月上旬の新聞紙上で明らかにされた。仮に現状のまま推移すると、2013年に1億2730万人であった我が国の人口は、2060年には8674万人に減少する。特に働く世代の人口減少は著しい。日本の生産年齢人口は、2060年には4割以上減少して4400万人となる。労働力の減少は企業経営の制約となるのは間違いなく、日本経済の面からも早急な対応が求められている。
3つ目の問題は人口の移動である。最近、地方では高齢者すら人口減少に転じ、人口減少が急速に進む自治体が出てきている。このまま若者に加え高齢者の人口まで減っていけば、現在の約1800ある地方自治体のうち、2040年には523が消滅する可能氏が高いという。高齢者のケアなどを仕事としている若い女性などが、高齢者数の減少に伴い地域で雇用される場がなくなり、東京などに流出していく流れを加速させる。後には高齢者だけが残され、やがてその高齢者もいなくなる。それこそ限界集落ならぬ消滅集落である。
これからの半世紀、これら我々に突き付けられた人口問題を解決できなければ、日本が行き詰まるのは明らかである。現状の社会システムを維持したままでは、もはや持続可能な日本はあり得ないが、ここで問題となるのは社会システムをどう変えればよいかということである。子供を増やし人口構成を変えることなど一朝一夕にはできない。人口問題の根本的解決には時間がかかるからである。
人口問題の解決に向けて模索が続いているが、実は国や企業が決断すれば今すぐにできることが3つある。それは、①高齢者すなわち支えられる者の定義の見直し、②生産年齢すなわち労働力の定義の見直し、③既得権益の放棄、の3つである。
最初が高齢者の定義の見直しである。現在は65歳以上を高齢者と定義し、年金や医療など社会保障制度の設計も65歳が基準になっている。しかし65歳を超えても健康で元気な高齢者が増えていることから、仮に高齢者の定義を75歳以上に変更すれば、社会保障を巡る景色は随分と変わってくる。
次の生産年齢の定義も同じである。現在は15歳以上65歳未満となっているが、最近では65歳を過ぎても労働力としての価値が残っている高齢者は多い。仮に15歳以上75歳未満を生産年齢と定義し直せば、雇用を巡る景色もまた大きく変わる。
問題は最後の既得権益である。既得権益というと、何も農協や医師会、あるいは労働組合だけではない。社会保障制度の適用をこれまでの65歳以上から75歳以上に引き上げれば、社会保障の恩恵にあずかれなくなる年齢層の人達は猛反発するであろう。また75歳までの雇用義務が課されれば、企業の経営者だけではなく雇用の影響を受けやすい若者世代も反発するかもしれない。
これらの反発(既得権益?)をおさえながら社会システムを変えていくことは容易ではない。しかし子供の数を増やし人口構成を変えるといった、時間をかけなければ達成できない政策の成果を待っていたのでは手遅れになりかねない。痛みを伴う政策でも、すぐに効果が現れる政策を考えていく必要がある。持続可能な社会経済に向けて、一方で既得権益の放棄という痛みをできるだけ少なくしながら、社会保障制度や雇用制度など社会システムの変革を進めていく。まさに日本人の知恵が試されているのは今である。
2014年5月7日 日本シンクタンクアカデミー 理事長 岡本憲之