2015年03月23日

(アーカイブ)2014年5月  高齢化と人口減少時代の社会経済 - 変革は待ったなし

 このところ我が国の人口問題に関する記事が新聞紙上を賑わせている。問題の根っこは何れも少子高齢化である。

 1つ目の問題は人口構成の高齢化である。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が今年4月11日に発表した推計によると、世帯主が65歳以上の高齢世帯は2035年に全世帯の4割を超える。高齢者(割合)の急増は、年金や医療など国の社会保障制度に待ったなしの対応を迫っている。

 2つ目の問題は人口の減少である。政府の経済財政諮問会議の下に置いた「選択する未来委員会」が今年5月中旬に中間報告として提言する内容が、5月上旬の新聞紙上で明らかにされた。仮に現状のまま推移すると、2013年に1億2730万人であった我が国の人口は、2060年には8674万人に減少する。特に働く世代の人口減少は著しい。日本の生産年齢人口は、2060年には4割以上減少して4400万人となる。労働力の減少は企業経営の制約となるのは間違いなく、日本経済の面からも早急な対応が求められている。

 3つ目の問題は人口の移動である。最近、地方では高齢者すら人口減少に転じ、人口減少が急速に進む自治体が出てきている。このまま若者に加え高齢者の人口まで減っていけば、現在の約1800ある地方自治体のうち、2040年には523が消滅する可能氏が高いという。高齢者のケアなどを仕事としている若い女性などが、高齢者数の減少に伴い地域で雇用される場がなくなり、東京などに流出していく流れを加速させる。後には高齢者だけが残され、やがてその高齢者もいなくなる。それこそ限界集落ならぬ消滅集落である。

 これからの半世紀、これら我々に突き付けられた人口問題を解決できなければ、日本が行き詰まるのは明らかである。現状の社会システムを維持したままでは、もはや持続可能な日本はあり得ないが、ここで問題となるのは社会システムをどう変えればよいかということである。子供を増やし人口構成を変えることなど一朝一夕にはできない。人口問題の根本的解決には時間がかかるからである。

 人口問題の解決に向けて模索が続いているが、実は国や企業が決断すれば今すぐにできることが3つある。それは、①高齢者すなわち支えられる者の定義の見直し、②生産年齢すなわち労働力の定義の見直し、③既得権益の放棄、の3つである。

 最初が高齢者の定義の見直しである。現在は65歳以上を高齢者と定義し、年金や医療など社会保障制度の設計も65歳が基準になっている。しかし65歳を超えても健康で元気な高齢者が増えていることから、仮に高齢者の定義を75歳以上に変更すれば、社会保障を巡る景色は随分と変わってくる。

 次の生産年齢の定義も同じである。現在は15歳以上65歳未満となっているが、最近では65歳を過ぎても労働力としての価値が残っている高齢者は多い。仮に15歳以上75歳未満を生産年齢と定義し直せば、雇用を巡る景色もまた大きく変わる。

 問題は最後の既得権益である。既得権益というと、何も農協や医師会、あるいは労働組合だけではない。社会保障制度の適用をこれまでの65歳以上から75歳以上に引き上げれば、社会保障の恩恵にあずかれなくなる年齢層の人達は猛反発するであろう。また75歳までの雇用義務が課されれば、企業の経営者だけではなく雇用の影響を受けやすい若者世代も反発するかもしれない。

 これらの反発(既得権益?)をおさえながら社会システムを変えていくことは容易ではない。しかし子供の数を増やし人口構成を変えるといった、時間をかけなければ達成できない政策の成果を待っていたのでは手遅れになりかねない。痛みを伴う政策でも、すぐに効果が現れる政策を考えていく必要がある。持続可能な社会経済に向けて、一方で既得権益の放棄という痛みをできるだけ少なくしながら、社会保障制度や雇用制度など社会システムの変革を進めていく。まさに日本人の知恵が試されているのは今である。

2014年5月7日 日本シンクタンクアカデミー 理事長 岡本憲之
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(アーカイブ)2014年3月  ミックス資本主義は荒唐無稽か

 経済のグローバル化は多くの企業をグローバルビジネスに駆り立てた。大企業はグローバル競争の中で市場占有率を高めるため、合併などを通じて資本を集中させ生き残りを図ってきた。そこでは少数の勝ち組が市場を席巻し、負け組は市場からの撤退を余儀なくされる。そんな「大きいことは良いことだ」といったグローバル資本主義の世界では、むしろ不安定で脆弱な経済となってしまう恐れはないか。そして結果として若者など弱い立場の人たちの雇用機会が奪われることにならないか。

 ところで最近、デンマークなどで登場してきた別の形の経済が注目を集めている。それは分散型資本主義と呼ばれ、地域が自ら資本を集め起業するローカルビジネス中心の経済であり、「持続することは良いことだ」を目指す。利用するエネルギーも風力や太陽光など地産地消をベースとした自給自足的経済であるが、そこで生産した商品はグローバルに販売することもできる。

 もちろん日本のように経済規模の大きな国では、ローカルビジネスだけでは一国の経済は成り立たない。あくまでグローバルビジネスが基軸である。しかし、より多くの地域で地元の特徴を活かしたローカルビジネスが誕生し根を生やせば、その裾野は広がり大いなるメリットをもたらすかもしれない。

 例えばグローバル競争に敗れた企業の従業員が職を失っても、一時的にせよローカルビジネスがその受け皿となり雇用が確保されるかもしれない。若ければ再度グローバルビジネスに挑戦することもできるであろう。高齢者であって再挑戦が難しければ、そのままローカルビジネスを続ければよい。目指すは若者も高齢者も、経済の状況に応じて臨機応変に就労の機会を得ることができる柔軟で懐の深い社会である。

 そのようなグローバルビジネスとローカルビジネスが相互に補い合う経済、言い換えればグローバル資本主義と分散型資本主義のミックス資本主義とでも呼べるような経済を実現することはできないものだろうか。特にわが国のように少子高齢化が進み、財政的にも社会保障制度を維持することが難しくなってきた社会では、誰もが年金や生活保護に頼ることは不可能である。もし高齢者でも就労できるローカルビジネスが年金や生活保護の代替的役割を果たすことができれば、財政の負担が軽減され、わが国における社会保障制度の持続性を高めるかもしれない。まさにミックス資本主義の発展が国を救うかもしれないと思うのだが、そのような考えは荒唐無稽な発想だろうか。

2014年3月4日 日本シンクタンクアカデミー 理事長 岡本憲之
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(アーカイブ)2014年1月  ヘルスケア活動への参加にインセンティブを与えよう

 わが国では高齢化が進む中、医療保険や介護保険といった社会保障制度に支えられる医療費や介護費が増え続けています。世代間の公平性や財政の持続可能性の観点から考えると、これからも現在の保健制度を維持するためには、保険料や自己負担割合を引き上げる改革は避けられないかもしれません。

 しかし保険料の増額や給付額の削減といった痛みを伴う改革だけではなく、もう少し前向きな改革も同時に進めなければならないでしょう。別の言い方をすると、健康を維持し病気を防ぐことができれば医療費や介護費の削減につながります。いわゆるヘルスケアです。ヘルスケア活動への参加を促進するような政策や制度の導入は、保健制度の持続可能性を高める効果があるのではないでしょうか。

 一般に社会参加には健康維持の効果があると言われています。例えば社会参加の1つの形態である就労です。実際、都道府県の中で高齢者就業率が最も高い長野県は、1人当たり老人医療費が最も少なくなっています。逆に高齢者就業率の低い福岡県や北海道は、1人当たり老人医療費が最も高くなっています。ある専門家によると、高齢者には働かせない風習があり高齢者就業率が最も低い沖縄県では、1人当たり老人医療費が高いだけではなく、寝たきりの高齢者が多いそうです。ちなみに長野県は寝たきりの高齢者が少なく、いわゆるPPK(ピンピンコロリ)を代表する県でもあるそうです。このことから高齢者の就労を促進する政策は、間接的にヘルスケア活動への参加を促していることになるのではないでしょうか。

 直接的にヘルスケア活動への参加を促す取組事例もいくつか報告されています。新潟県の見附市では、食生活、運動、生きがい、検診の4本柱で事業を展開する「いきいき健康づくり推進計画」を進めています。「日本一健康なまち」を目指すこの取組で医療費は大幅に削減されたそうです。広島県呉市でも、国民健康保険においてレセプトデータ分析や保健指導等により医療費の大幅な削減に成功しています。また米国のある事例では、1歩歩くと医療費がいくら削減されるかを研究し、エビデンスに基づく取組も行われているそうです。

 これら健康を維持するためのヘルスケア活動にとって大切なことは、それが参加したくなるようなものでなくてはなりません。つまり誰もがヘルスケア活動に参加したくなるようなインセンティブが必要です。収入と健康が同時に手に入る高齢者の就労促進は、ある意味では参加したくなるヘルスケア活動と言えるかもしれません。またヘルスケアポイント制度の導入なども検討に値するでしょう。例えばヘルスケア活動に参加することによってポイントが貯まると、そのポイントに応じて健康保険料が割り引かれるといったような制度です。

 いずれにしてもヘルスケア活動を普及させることは、高齢者の社会参加と老人医療費の削減を同時に達成することにもつながり、前向きな社会保障制度改革と言えるのではないでしょうか。そして1人でも多くの高齢者に参加してもらうためには、ヘルスケア活動に効果的なインセンティブを与える制度の導入が欠かせないと考える次第です。

2014年1月14日 日本シンクタンクアカデミー 理事長 岡本憲之
posted by 毎月コラム at 11:06| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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