同番組の中でも話題になっていたが、高年齢者雇用に関しては気になる点がいくつかある。法律の施行で原則65歳までの雇用が企業に義務付けられたが、多くの企業は60歳定年制を崩さず、それ以降は再雇用の形で高年齢者の雇用を継続している。この事実が示していることは、企業にとって本当に必要な職域が高年齢者のために確保されているのではなく、むしろ高年齢者の雇用が福祉雇用の意味合いを帯びている現実ではないか。
高年齢者の側にも問題がある。再雇用によって、かつての部下が今度は上司になることもある。しかし過去の立場にこだわり、なかなか意識改革ができない高年齢者も多いようである。そのため職場における人間関係がうまくいかなくなり、高年齢者は煙たがられる存在となってしまう。結果として企業の生産性にも悪影響を及ぼすことになる。
また、高年齢者の雇用が若者の雇用に悪影響を及ぼすとの指摘がある。ただし、この指摘については反論もある。例えば、フランスで過去に行われた高年齢者の退職促進政策が、結果的に若者の就業率向上につながらなかったというデータはしばしば引用されている。
少子高齢化で悪化する年金財政を考えると、恐らくこれからの高齢者は年金だけで生活するのは難しくなる。高齢者といえども元気なうちは若干でも収入を得るために働くことが普通になるのではないか。そのとき不可欠となるのは、高齢者と若者が雇用に関してウィンウィンの関係を構築することである。
少子化で若者の人口は減少しており、わが国における労働力不足は深刻になってくる。高齢者と若者が共に労働力となる関係を構築することは不可能ではないはずだ。知恵を出せば、若者の雇用を奪わずに高齢者の雇用を生み出すことは可能なはずである。
そのための取り組みも始まっている。次世代に知識や技術・技能を引き継ぐ「伝承の仕事」、繁忙期の手助けなど現役世代の仕事を補完する「高齢者派遣」、子育て支援など働く若い夫婦を手助けする「地域ビジネス」、収入は多くないがリスクが少なく若者の雇用も奪わない「ナノコーポ起業」・・・・・いずれも世代間での役割分担を目指した就労である。要は「次の世代のために高齢者ができることは何か」が重要なポイントとなる。
わが国ではこれまで、入社が単に会社に入る就社になる傾向があった。そのため退職すると、自分は「何ができる」ではなく、「何であった」となってしまう。そうならないためには、行政であれ企業であれ、就職の本来の意味である職に就けるよう従来の制度や慣行を改めるべきである。それによって初めて退職後も働くために必要な知識や技術が身につくことになる。つまり自分は「何ができる」となる。
短期的には多少のコストアップになっても、それが年金財政など将来の莫大なコストを回避するための道である。来るべき超高齢社会を前に、それぞれが長期的視点に立って真剣に考えて欲しいものである。
2013年11月5日 日本シンクタンクアカデミー 理事長 岡本憲之